多発性骨髄腫のサリドマイド療法 作成 2009年1月
サリドマイドとは?
1950年代に西ドイツで睡眠剤として発売され、続いてヨーロッパ各地に普及した経口薬です。日本では1960年代に販売が開始され、鎮静剤として妊婦のつわりの薬にも使用されました。しかし、妊娠初期の女性が服用し、新生児に四肢奇形が発生したことからサリドマイドが催奇形性を有することがわかり、発売が中止になりました。
1998年、アメリカFDAはハンセン病を適応症にサリドマイドを承認しました。さらに、サリドマイドの作用メカニズムの研究において抗炎症作用や血管新生抑制作用が次第に明らかになり、がんや炎症性疾患への治療効果が期待されています。
多発性骨髄腫に対しては、世界各国からの報告によってすでにその有効性は証明されており、わが国でも2008年10月16日に承認されました。
なぜ、サリドマイドが骨髄腫に効くのか?
サリドマイドに強い血管新生抑制作用があることが1994年動物実験で発見されました。
ほぼ同時期に、骨髄腫患者は正常に比べ骨髄中の微小血管が非常に豊富であり、骨髄血管新生は骨髄腫細胞の増殖や病状の活動性に関与しているとの研究報告がされました。 このことから、骨髄腫患者に血管新生抑制剤としてサリドマイドを使用すれば、骨髄腫の増殖を抑えられるのではないかという仮説が立てられました。
しかしながら、その後の研究により治療前後の骨髄血管量は変化がないことがわかり、現在ではサリドマイドのもつ血管新生抑制作用を含め以下のようなさまざまな機序が総合的に作用していると考えられています。
サリドマイド治療の効果
2008年10月16日にわが国でもサリドマイドが標準的な治療の効果が不十分、または再発した場合の多発性骨髄腫治療薬として承認されています。
単剤:
国内外における多くの研究の結果から、このような再発/治療抵抗性患者におけるサリドマイド単剤の効果はCR(完全寛解)1.6%、PR(部分寛解)26%、奏功までの期間は1~2ヵ月、1年でのEFS(無再燃生存率)は23~45%、1年OS(全生存率)は46~86%と報告されています。
尚、染色体異常がない患者のほうが効果を期待できるとの報告もあります。
(多発性骨髄腫の診療指針第二版p33)
デキサメタゾンとの併用:
サリドマイドとデキサメタゾンの併用療法によるPR以上の効果は50%以上であり、サリドマイドの投与量を抑えつつ奏功までの期間を短縮することが知られています。
日本では日本骨髄腫研究会(現:日本骨髄腫学会)が、少量サリドマイド+少量デキサメサゾン併用療法の臨床試験を行ないました。造血幹細胞移植後の再発例および難治性治療抵抗性骨髄腫患者66人に、サリドマイド200㎎とデキサメサゾン4㎎を連日投与し、その安全性、有効性を検討しました。M蛋白が25%以上減少した奏効例は63.6%で、サリドマイド治療開始後の生存期間中央値は25.4ヶ月で、欧米の成績とほぼ同じでした。
サリドマイドと化学療法の併用療法
サリドマイドと化学療法併用は多くの手法が研究されていますが、特に従来のMP療法と組み合わせたMPT療法の自家移植治療にも匹敵する高い奏功率が注目されています。 生存期間延長についてはさらなる観察が必要ですが、経口治療であることもあり、米国では高齢患者の標準的治療の一選択肢となりつつあります(多発性骨髄腫の診療指針第二版p28)。
サリドマイドの投与法
わが国で承認されたサリドマイドはカプセルですが、個人輸入の分には錠剤もあります。何れにせよ経口薬で、一般的に一日1回、就寝前に服用します。
サリドマイドの投与量や投与スケジュールは、最初100mg/日から開始し、約2週間後に治療効果を判定し、効果が不十分で、重い副作用がない場合は、200mg/日に増量します。同様に、最高400mg/日まで増量できます。
サリドマイドの副作用
最初に述べたとおり、サリドマイドの催奇形性は忘れてはならない副作用です。避妊と薬の管理は厳重に行わなければなりません。わが国の承認薬は、TERMS(thalidomide education and risk management system)という教育・安全管理システムにより管理・運営されます。
催奇形生以外の副作用として注意を要するのが、
末梢神経障害
好中球減少(血小板減少)
深部静脈血栓
です。
末梢神経障害:
投与期間が12ヵ月を超えると、70%の患者で出現すると言われています。
発現後早期に休薬すれば回復することが多いものの、中止せずに継続すると不可逆的となることがあります(多発性骨髄腫の診療指針第二版p33)。
通常は手足の指から始まり躯幹近位部(体の中心方向)に広がってきますので、異常を感じた時には遠慮することなく主治医や治療チームのメンバーに相談することが大切です。
白血球減少(好中球減少):
海外では3~15%の頻度と報告されていますが、日本人では40%、重度の白血球減少は10%とも報告されています。 投与開始直後は、少なくとも週1回は血液検査で経過を追ってもらう方がよいでしょう。
深部静脈血栓:
日本人での発生は海外の報告より少ないと言われていますが、高齢・肥満・合併症・腫瘍量が多い・深部静脈血栓の既往歴がある に該当する場合は発現するリスクが高く、 デキサメタゾンや化学療法剤との併用の場合はアスピリンによる予防措置が必要とされています(多発性骨髄腫の診療指針第二版p33)。
サリドマイド療法の有効性が示されている文献は以下のとおりです。下線が引いてあるものはインターネットで入手が可能です。
サリドマイドの有効性を示した文献 (総論)
British Journal of Haematology 120, 18-26, 2003
参考文献
Blood 96 (suppl1): 167a, 2000
文責 日本骨髄腫患者の会 中雄 大輔
監修 群馬大学医学部保健学科 教授 村上博和先生