Q:ベルケイドの副作用にひどい痺れがあると聞きます。それがどのようなものか、教えてください。
① 全員に発生するのでしょうか? 必ず、誰にでも発生するわけではありません。製薬メーカーが実施した国内及び海外の臨床試験によると、およそ4割の患者で痺れ等の末梢神経障害が発現しており、そのうち、およそ2割で箸が使えない、ボタンが掛けられない、足下がふらつく、といった日常生活に支障をきたすような重い神経障害が認められています。重い神経障害の発現率は、4割の2割ですので、8%、です。 ② どういう人に発生しやすいのでしょうか? 糖尿病のある患者やベルケイド治療前にすでに痺れ等の末梢神経障害がある患者に起こりやすい傾向があります。 また、製薬メーカーが実施した国内の販売後調査によると、以前にサリドマイドやビンクリスチンなどの神経障害をきたす(痺れの副作用がある)薬剤による治療を受けたことがある患者さんに起こりやすい傾向があることが分かりました。 ③ 逆に、どういう人には発生しにくいのでしょうか? 現時点ではわかっていません。 ④ 発生しないようにする方法を教えてください。 はっきりした方法は、現時点ではわかっていません。 海外ではビタミン剤(ビタミンB群、葉酸、ビタミンE)やアミノ酸製剤(アセチルL-カル二チン、アルファリポ酸)などの投与などが試みられているようですが、どの程度有効なのかはまだ分かっていません。 ⑤ 治療開始後、いつ頃に発生するのでしょうか? 発現時期には個人差がありますが、海外の臨床試験によると、ほとんどの方の神経障害は、ベルケイドの投与をはじめて3〜4サイクル目から現れる方が多く、6サイクル目終了時に神経障害がなければその後で現れてくることは稀です。ただし年齢が高い方の場合には早くから現れることがありますので、注意が必要です。 ⑥ 痺れ(末梢神経障害)とは、具体的に、体のどこが、どうなるのでしょう。 現れ方にも個人差がありますが、多くに場合、下記のような症状が認められます。特に、手足の先端の症状を訴える方が多いようです。 ・全身:筋痛または関節の痛み ・手足の先端:しびれ感、ジンジンするような感じ、ちくちく(ひりひり)する不快感、疼くような感じ、末梢の冷感、感覚が過敏になった、感覚が鈍くなった(なくなった)、熱い感じや冷たい感じがする ・足(下肢):ふくらはぎや太もものけいれん、電撃痛(ぴりぴり感)、温感減退(お湯などの温度を感じなくなる)、つまずきやすくなる ・その他:耳鳴がする、耳が聞こえづらい、味を感じない ⑦ 早い段階で薬の量を減らしたり、休薬したりするといいと聞きますが、初期の段階で注意すべき徴候を教えてください。 ⑥で紹介した症状が新たに出てきていないか、今まであった症状に変化が見られないかを気をつけてください。些細なことでも変化が見られた場合(新たに発現した症状、悪化した症状)には、すぐに医療チームのメンバー(、主治医や、看護師、薬剤師等)に相談してください。 痺れ等の神経障害は、薬の副作用として発現するだけではなく、多発性骨髄腫の症状として出てくる場合もありますので、躊躇せず、医療チームのメンバーに相談することがなにより大切です。ベルケイドは投与量を減らしても治療効果を得られることが確認されていますので、『治療効果を維持する為には我慢しなければならない』とは思わないでください。 ご自分の症状の変化を、ノート等に記録し、来院時に持参すると、忘れずに主治医や看護師、薬剤師に相談することが出来ます。ベルケイドの治療日誌(製薬メーカー作成の日々の変化について記入できる冊子)が欲しい場合は、主治医にお尋ねください。 ⑧ 治るのにはどれぐらい時間がかかりますか? 個人差がありますが、製薬メーカーが実施した海外臨床試験では、痺れ等の末梢神経障害をおこした約半数の患者さまは100日間ぐらいかかりました。また、症状の重い方の場合には、もっと長い期間かかる場合もあります。一般的に、早くに減量や休薬を行った場合のほうが、回復も早いし回復される方の割合も高くなります。 ⑨ 悪化させないための方法はないでしょうか? 治す薬はありますか? 現時点で最もいい方法は、症状の軽い時期や早い段階で、ベルケイドの量を減らしたり、一時中断したりすることですので、わずかな症状の変化も、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。 てんかんに対する薬剤やうつ病の薬等が効果ある場合もあり、応用して使われてはいますが、ベルケイドに限らず、抗がん剤による神経障害への対処j方法はまだ、はっきりとは定まっていません。 海外の医療機関では、ビタミン剤やアミノ酸製剤の他、ビタミンE含有のクリームによるマッサージやカリウムが豊富な食事(バナナやオレンジなど)などが試みられてはいますが、どの程度有効なのかはまだ分かっていません。 ⑩ 発生したら、治療を中断する必要があるのでしょうか? 症状の強さにより、そのまま治療を続けられる場合や薬の量を減らして治療を続ける場合、また治療を一時的に中断する場合などがあります。また、神経障害の症状が非常に重い場合には、治療を中止することもあります。実際にベルケイドを中断しても数ヶ月から半年間にわたって骨髄腫の病状が安定していらっしゃる患者さんも多くみえますので、神経障害の程度に応じた減量や休薬を躊躇する必要はありません。 いったんベルケイド治療を中断しても、痺れ等の症状が改善すればベルケイド治療を再開できることは知られていますので、『治療効果を維持する為には我慢しなければならない』とは思わず、末梢神経障害の症状や状態は必ず主治医や看護師、薬剤師などへ詳しく伝えてください。 ⑪ 痺れ(末梢神経障害)が強くベルケイドを続けられない場合、骨髄腫の治療はできないのでしょうか(ほかの薬とか) 末梢性神経障害の副作用のない薬もありますので、骨髄腫の治療をすることは可能です。 また、一時的に、治療を中断したり、別の薬に切り替えたりしても、痺れ等の症状が改善すれば、再度、ベルケイドの投与を開始できる場合もあり、以前効果があった患者さんでは再投与時にも約半数の方に効果が期待できることがわかっています。 神経障害の症状が軽ければ、ベルケイドによる治療を続けることも出来ますので、痺れ等の症状がひどくなる前に、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。 回答者 : 名古屋市立大学病院 血液・膠原病内科部長 飯田先生