:2007年アメリカ血液学会報告

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2007年アメリカ血液学会報告

konishi 2007.12.11 [学会関連][海外情報]

 

熊本大学医学部血液内科 奥野 豊先生による出席レポート

2007年アメリカ血液学会レポート 

 

 

 

2007年12月8日から11日の4日間、アメリカ南東部に位置するアトランタにて第49回アメリカ血液学会(ASH)が開催され、私も参加して参りました。アメリカ血液学会は臨床医、研究者、その他パラメディカルの方々を含め約21000人が参加する巨大な学会であります。ちなみに、最近の日本血液学会などでは製薬会社のブースは縮小傾向にあり、感覚的には10年以上前からすると5分の1くらいになった気がしますが、アメリカ血液学会での製薬会社を含めた企業のブースの数の多さ、その面積たるや日本の数十倍はあるかも知れません。さて、その広大な企業のブースでもとりわけ目を引いたのが、多発性骨髄腫の治療薬であるベルケイド(bortezomib)のミレニアム(Millennium)と、レブリミド(lenalidomide)のセルジーン(Celgene)のブースでした。まさしくこれが今回のアメリカ血液学会を象徴しておりました。つまり、今回のアメリカ血液学会においてもっともホットな話題が多発性骨髄腫の治療薬とそれを基にした臨床試験の結果発表でありました。

 

今回、アメリカ血液学会においては、基礎研究よりも臨床面での発表が注目を浴びておりました。その中でもとりわけ多発性骨髄腫の臨床試験のデータの発表が最もハイライトされておりました。慢性骨髄性白血病においてはImatinib(グリベック)が、悪性リンパ腫においてはRituximab(リツキサン)が大きくその予後を改善してきましたが、多発性骨髄腫においてはそのような薬剤は長年出現してこなかったわけです。しかしながら、この数年間の間に臨床に登場してきたベルケイド、レブリミドなどの新薬とサリドマイドが、さらに他の薬剤との併用にて大きく多発性骨髄腫に対する治療成績を改善する可能性が今回の学会にて示されました。ですから今回のアメリカ血液学会はここ数年の多発性骨髄腫における大きなブレークスルー(進歩)が確認された学会でありました。

 

それでは、実際の発表の内容で骨髄腫の患者さんの役に立ちそうな演題の抜粋を数題お示し致します。

 

自家末梢血幹細胞移植関連では、60歳以下の場合は自家末梢血幹細胞移植(ASCT)を1回より2回行った方がいいが、60歳以上の人ではASCTを行うよりもMPT(メルファラン、プレドニゾロン、サリドマイド3剤併用)の方が成績がいいというものがありました。
また別の発表では、ベルケイド使用後に大量メルファラン併用ASCTを行うとCR(完全寛解) 32%, VGPR(極めて良好な部分寛解) 32%と合計64%の患者さんが非常に良好な結果を得ていました。また、ACST後にCRとなった人ではその後サリドマイドを続けても予後に差はないが、VGPRの患者さんではサリドマイドを維持療法として内服を続ける方が予後が良好という結果を得ています。

 

次に新薬がらみの発表では、ベルケイド、レブリミド、サリドマイドなどを組み合わせたり、他の薬剤と組み合わせたりした治療法を、初発で未治療の患者さんに用いた臨床試験の結果が相次いで発表されました。
そのなかでも最も注目を浴びたのが22ヶ国151人の研究者が参加したVISTA studyで、これは従来のMP療法(メルファラン、プレドニゾロン併用)と、MP療法にベルケイドを併用したVMP療法とを比較したもので、それぞれ350人近い患者さんが割り振られて治療成績を比較しておりました。結果としてはMP療法群でCR 5%, VGPR 5%しかないものがVMP療法群でCR 35%, VGPR 10%と著明にVMP群で治療成績が上回ったというものでありました。しかもVMP療法は高リスク群、低リスク群に係わらず有意差なく良好な成績をもたらしたということで、高齢でも使える治療レジメンであることが証明されました。
私にとっては初めての経験で驚きを隠せなかったのですが、この発表が終わった瞬間、会場が拍手に包まれなかなか鳴り止むことはありませんでした。といいますのも学会というものは粛々と進むものであり、発表後の拍手は勿論あるのですがすぐにやんで次の発表に移るからです。このことで今回の学会においてまさしく多発性骨髄腫の治療の進歩の発表がハイライトであることを私は改めて認識致しました。

 

この他にもサリドマイド、デキサメサゾンの併用(TD群)でVGPR以上が27%しかないのに対し、これにベルケイドを加えた3剤併用(VTD群)ではVGPR以上が60%に達するというものでさらにASCTを加えた場合、TD群でVGPR以上が54%に対しVTD群で77%(CR 45%, nCR 12%)に達していました。
また、IMFの研究では従来のMP療法で平均生存期間が27.7ヶ月出会ったのに対しサリドマイドを加えたMPT療法では45.3ヶ月と、サリドマイドの追加が著明に予後を改善することが分かりました。さらにはベルケイド、レブリミド、デキサメサゾンの併用という現在考えられる最強の併用療法の、未治療の患者への治療成績が発表され、53名の患者でVGPR以上が55%という良好な成績が発表されました。ただこれらの成績はまだ統計を取っている途中であり、完全な成績の評価にはさらに数年の観察期間が必要です。
その他にもまだ実験段階から臨床に移ってきたばかりのHDAC阻害剤などの新規薬剤の成績も発表されつつあり、目まぐるしい骨髄腫の治療法の進歩が認められた学会でした。

 

さて以上の海外での目まぐるしい進歩をみたときに我が国の現状はといえば、ベルケイドは認可されましたが、初発の患者には使えず難治性の患者に限定されておりさらに他剤との併用は許されておりません。一方、サリドマイド、レブリミドに至っては認可さえされておりません。結果的に、今回発表された殆どの輝かしい治療法のいずれもが日本では保険適応内では行えないことになります。昨今の日本の医療情勢をみると新薬の承認の遅れも危惧される次第で、私は日本の骨髄腫患者さん方を取り巻く状況に暗澹たる思いを抱かざるを得ませんでした。何とかこれらの治療が早期に日本でも可能になることを祈るばかりですし、場合によっては積極的な働きかけが必要ではないかと感じずにはおれませんでした。
 

 

以上、私のアメリカ血液学会の報告とさせて頂きます。

 

(文責:熊本大学医学部血液内科 奥野 豊)

 

 

 

Information
The American Society of Hematology
49th Annual Meeting
December 8-11, 2007
Atlanta, Georgia
http://www.hematology.org/meetings/2007/index.cfm