熊本大学医学部血液内科 畑 裕之先生による出席レポート
アメリカ血液学会は、毎年12月上旬に開かれます。今年も12月9日―12日まで、フロリダ州オーランド市で開催されました。
骨髄腫に関する発表は、全部で400以上もあり、すべてが我々医師にとって、直ちに診療に結びつくものではありません。そのなかから、より診療に直結する話題を選んで医師向けに行われるのが、International Myeloma Foundation (IMF)が主催して学会前日に行われるシンポジウムです。今年も学会に先立ち開催されました。Brain Durie(米), Bart Barlogie(米), Mario Boccadoro(伊), Jean-Luc Harousseau(仏), Vincent Rajikumar(米), Jesus San-Miguel(西)の6名が症例を基に討論を行う形式です。
論点は主に、
1:初めての治療には何が良いか
2:維持療法には意味があるか
という点でした。ここでは、その話題を紹介いたします。
「治療法の選択について」
65歳以下の若い症例には大量メルファラン療法が予後を改善するというのが今の一般的な見解ですが、これに先立ちVAD療法を行うことが普通です。しかし、欧米では、大量メルファラン療法の前に、サリドマイド、レブリミド、ベルケードなどをデキサメサゾンと併用する方法を用いることが推奨されました。(日本では、未治療例にはどれも保健適用となっていません。)これらの方法は、高い奏功率を有することがわかっており、また、幹細胞の採取の邪魔にもならないことがわかっているからです。
今回のシンポジウムでの一致した見解は、CR(骨髄腫細胞が見かけ上消えてしまうこと)をもたらすことが治療の上で重要だということです。このことは、これまで良い薬がなく、骨髄腫細胞を消してしまうことが難しかったのですが、今後は様々な薬を組み合わせることで、この限界を超え、CRをもたらす治療法が開発されつつあることを意味しています。この治療法を行った場合の長期追跡結果はまだ出ていませんので、これが最善かどうかは不明ですが、今後、VAD以外の新薬による治療を最初に行い、骨髄腫細胞をできるだけ減らしてCRを得て、ダメ押しの治療としてメルファラン大量療法を行うようになるかもしれませんし、ひょっとしたらメルファラン大量療法がいらなくなるかもしれません。
ただし、今後の問題は、選択肢となる薬が多いことです。VAD療法に変わる選択肢としては、サリドマイド+デカドロン、ベルケード+デカドロン、レブリミド+デカドロン、MP療法+サリドマイド、ベルケード、レブリミド、ドキシルのうちひとつ、または組み合わせなどたくさんの治療法が考えられます。これらをどのように選ぶかは大変無難しい問題ですが、13番染色体の欠失や4番と14番染色体の転座など、メルファラン大量療法の効きにくい病状にベルケードは効果がありますので、検査結果に応じて治療法を変えていくことになるでしょう。
「副作用について」
薬を組み合わせると副作用にも注意が必要です。欧米には深部静脈血栓症が多く、特にサリドマイド、デカドロン、ドキシルなどを使用すると1割以上の発症率があります。日本では血栓症は少ないと考えられていますが、これらの治療を行う時は、アスピリンでの予防を行う必要があるようです。また、サリドマイド、ベルケードはどちらも痺れなどの神経障害がありますので、併用する時には要注意です。
「維持療法について」
サリドマイドを、メルファラン大量療法の後の維持療法に使用すると生存期間の延長が見られるが、大量化学療法と一緒に使うと、一時的には奏功率が上がるものの、増悪後にはかえってよくないとのデータが示されました。ビスフォスフォネートを維持療法に使うと、骨病変の予防には有効ですが、アレディアに比べてゾメタを使うと顎骨壊死の頻度が高くなるとの報告も示されており、長期間、漫然と投与すべきではないとの警告がありました。特に、抜歯などの歯科処置を受けると、顎骨壊死がおきやすくなることは、患者さんにも必要な知識です。
「まとめ」
骨髄腫の治療は大きな変革期に来ていることは間違いありません。ただ、日本でこれらの薬が自由に使えるわけではありませんし、欧米でさえも治験という手続きを踏んで注意深く使用されています。しかしながら、患者さんにとっては、根拠に基づく現在の治療を続けつつ、将来への希望を持ち続けることができる時代になりました。毎年新しい薬が開発されていますが、現在は、開発当事者もどのような組み合わせで、どのような時期にこれらを使うかを検証している段階といえます。今後は、メルファラン大量療法をこえる治療が出てくるかどうかが重要なポイントでしょう。
(文責:熊本大学医学部血液内科 畑 裕之)