:2005年アメリカ血液学会報告

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2005年アメリカ血液学会報告

konishi 2005.12.13 [学会関連][海外情報]

熊本大学医学部血液内科 畑 裕之先生による出席レポート

2005年アメリカ血液学会レポート

 

 

 

米国血液学会は、米国内だけではなく、実態は全世界から血液学を専門とする医師、研究者が集まる世界最大の血液学会です。本年はルイジアナ州ニューオーリンズで開催予定でしたが、ハリケーンの影響で、急遽ジョージア州アトランタに変更になり、12月10日~13日まで開催されました。私も出席しましたので、主な内容を報告します。

 

例年、学会前日に多くの関連集会が開催されますが、骨髄腫関係では、New Agents and New Opportunities for Multiple Myeloma: Today and TomorrowとImproving Therapeutic Outcomes in Multiple Myelomaという2つの集会が開催されました。前者はInternational myeloma foundation後者はMultiple myeloma research foundationの主催です。私は前者に参加しましたが、参加者は4-5百人規模で、会場は骨髄腫の治療に携わる世界各国の医師でほぼ満席の状態でした。ここでは、以下の5つの課題について、全員に配布された回答装置でその場で全員のアンケートをとり集計できるようになっていました。

 

 

課題1:大量メルファラン療法の今後の意義は?

 

アンケート集計の結果、参加したほとんどの医師は、ボルテゾミブ(商品名ベルケード)、サリドマイド、レナリドマイド(商品名レブリミド)などの新規薬剤を最初から使うことを考慮していることがわかりました。今後、最初の治療としての幹細胞移植併用大量メルファラン療法は出番が少なくなることも考えられます。ただし、新しい薬剤は使われ始めたばかりであり、最初から長期間使用した場合の副作用や効果の持続性は、まだ不明な点が多く、本当のところがわかるには時間がかかりそうだとの意見がありました。

 

 

課題2:新規薬剤で完全寛解を得ることは生存期間の延長に重要か?

 

骨髄腫は大量化学療法でも完全寛解を得ることが困難な病気ですが、完全寛解を得た患者さんの生存期間が長いことは事実です。最近の報告では、サリドマイド、レナリドマイドなどをメルファランと組み合わせることで、大量化学療法によらなくとも完全寛解が得られることが報告されています。これらの新薬と古い薬の組み合わせで、完全寛解に関しては大量化学療法に匹敵する効果が得られる可能性があるとのことでした。

 

 

 

課題3:維持療法は生存期間を延長させるか?

 

これまでは大量化学療法後の維持療法としては、有効なものはありませんでした。しかし、サリドマイド、レナリドマイド、ボルテゾミブなどが使用され始めて、これらを維持療法として使用する試みが出てきているとのことです。サリドマイド+パミドロネートが維持療法として有効で、生存率を向上させるとのことでした。しかし、長期間これらの薬を使用することによる毒性、とくに神経毒性(しびれ)が問題のようです。

 

 

課題4:幹細胞移植併用大量化学療法は2回すべきか?

 

1回目の大量化学療法の効きが悪い場合には、2回目の大量化学療法を行うほうが良い結果を得られるが、1回目の大量化学療法が良く効き、完全寛解に近い効果が得られた場合には、2回目は不要であるとの説明でしたが、これは参加者全員の一致した意見でした。

 

 

課題5:再増悪時には新しい治療薬を使うべきか、それともこれまでに知られている治療にすべきか?

 

大量化学療法によって安定した状態にあった方で、再び骨髄腫細胞が増えてくることはよくあります。このような時には、サリドマイド、ベルケード、レブリミドなどの新薬と、メルファラン、ドキソルビシンなどの古い薬を効果的に組み合わせることが有効であろうとのことです。再増悪事には、今後、このような治療法が主流となっていくのではないでしょうか。

 

この集会以外の発表でも、ボルテゾミブとレナリドマイドの話題が多く見られました。ボルテゾミブは米国ですでに難治再発例に使用が認められたのち、すべての骨髄腫にも承認されています。しかし、その使用法は米国においても様々であり、どのように使用すべきかのコンセンサスはまだ得られていないのが現状です。①未治療例に最初から使用する、②大量化学療法後の維持療法として使用する、③大量化学療法後の再発例に使用する、の3つの選択肢があります。ボルテゾミブはどのような使用例においても、これまでの薬剤をしのぐ効果を示しているようですが、副作用が出やすいのが難点のようです。ボルテゾミブの副作用、特に神経障害(しびれ)は使用を中止すれば回復するとされているので、注意深く使用することが大切であると強調されています。いずれにせよ、ボルテゾミブの使用法は、欧米でもまだ模索中ですが、種々の臨床試験が進行中であり、今後の結果が注目されています。

 

 

おわりに

 

ボルテゾミブ、レナリドマイドは、両者ともに現在(編者注:2006年12月時点)の日本では使えない薬ですので、以上の内容は、現時点ですぐに応用できるわけではありません。しかし、日本においてサリドマイドは現在臨床試験中であり、ベルケードは発売のめどがたっているようですので、近い将来、日本での治療法も様々な局面で大きく変わってくるものと思われます。

 

(文責:熊本大学医学部血液内科 畑 裕之)

 

 

 

Information
The American Society of Hematology
47th Annual Meeting
December 10-13, 2005
Atlanta, Georgia
http://www.hematology.org/meetings/2005/index.cfm